もう数年前の話になる
ちょっと書かせてくれ
いや書いてやる
よくある自分語りスレだけど見てくれたらうれしい
転校生が来たのは高2の時
その学校は週に3日学校に通うクラスと週に1日学校に通うクラスに分かれていて、俺は週3クラスだった。
週3クラスと週1クラスは通う日が違うし
週3は午前だけ、週1は午後だけだから顔をあわせたことがない。
普通に大学行って普通に就職するんだろうなって思ってた。
通信高校に来たからって訳じゃないけど、
どっかで人生をあきらめてたな。
俺は昔から日記を付けてるからそれを参考にしながら書いてく。
クラスに一人の転校生が入ってきた。
通信学校で転校生は全然珍しくないから小、中学校で経験した転校生に対するドキドキは特にない。
その転校生は長井という名前で、色白で黒髪を肩くらいまで伸ばした女の子だった。
3時間目、移動教室でパソコン室へ。
長井はちょうど空いていた俺の隣の席に座った。
女子「長井さんはどこの学校から来たの?」
長井「○○女子高から」
自信がないようなおどおどしたしゃべり方だった。
が、そんなことより俺は女子高っていうのが珍しくて
「女子高!?」と割と大きな声で言ってしまった。
長井「う、うん」
転校生も若干引いてるし・・・。
今思えばこんなのが最初の会話だなww
忘れないはずだ。
エクセルの試験が近いこともあり、5人くらいの生徒がパソコン室で居残り授業。
その中に俺はもちろん、長井もいた。
授業内容は、練習問題を早く解き終わった人がわからない人に教えるというものだった。
だけど俺はパソコンが苦手。
逆に長井はパソコンが得意なようで、誰よりも早く終わらせ誰よりも遅い俺を教えることに。
俺に教えている時もおどおどしたようなしゃべり方だったから、
こいつは元々こういうしゃべり方なんだなと理解した。
長井は丁寧に教えてくれているんだけど俺の頭は女子校のことでいっぱいだった。
健全な男子高校生だからしょうがないよねww
そこで長井に訊いてみた。
俺「ねえ、女子校ってどんなところだった?」
長井「うーん・・・みんな彼氏と工ッチしたとか、そういうことしか言わなくて嫌なところだったよ」
俺「へっ?」
俺はこの時二つのことでびっくりした。
全部の女子校がそうかどうかはわからないけどww
そして二つ目はこんなおとなしそうな子が男である俺の前で工ッチとか言ったこと。
だけど長井はまったく恥ずかしがる素振りを見せない。
俺は意識しすぎだと思い「まあ、男の目がないからなー」なんて言って平然を装った。
書かなくても分かると思うけど
セリフはこの時こんなこと言ったなーって思い出しながら書いてるだけで、
すべてその通りに言ってるわけじゃないぞ。
パンツは吐いとけwww
そっちの方が一年の経過がわかりやすいと思う。
この日もいつも通り休み時間に親友のハマー(濱治)ってやつとしょうもないことを話してたら、
後ろから誰かが俺の名前を呼んだ。
あ、俺安藤って名前ね
もちろんみんな仮名(濱治以外)
振り向くと長井がいた。
俺「どした?」
長井「・・・これ」
そう言いながら長井は四つ折りにされた紙を俺に差し出した。
こ、これはっ!
俺が紙を受け取ると長井は自分の席に戻っていった。
ハマーがなんか言ってたけど無視。
そして次の授業中こっそり読んでみた。
・・・あれ?これ、ラブレターじゃないぞ。
『安藤君へ
安藤君が先生にバイト先を探していると言っているのを聞きました(盗み聞きをするつもりはなかったの)。
そこで、私のバイト先を紹介したいと思います。あとでメールアドレスを教えてください。 長井 』
みたいな感じだった。
完全にラブレターだと思い込んでた俺は結構へこんだ。
これなら手紙にしなくてもいいじゃないか・・・。
先生にこんなことを言った覚えはなかったが、
まあバイト先を探していたのは事実だったのでとりあえず話を聞いてみることにした。
俺「えーと、長井・・・だったよね」
なんとなく確認の質問。
長井「えっ?・・・うん」
長井の手にはすでに携帯があった。
それを見て俺もすぐに携帯を出す。
俺「メアド、交換するか」
長井「そうだね」
こんなぎこちない感じでメアド交換は終了。
俺「今日中にメールするよ」
長井「お願いします」
俺「じゃ、またね」
長井「うん、またね」
帰りのバスの中で長井への最初のメールはなんて打とうかずっと考えていた。
かっこの中はメールの内容ね。
俺『安藤です
さっそくだけどバイトのこと教えて』
すると5分もたたないうちに返信が来た。
長井『○○(店の名前)ってところ
分かるかな?』
俺『ちょっと待ってて』
パソコンで店の名前を調べるとすぐに出てきた。
個人経営の飲食店だった。
しかしそこは俺の家からすごく遠い。
片道1時間以上かかるからとても高校生がバイトとして通勤できる距離じゃない。
残念だが断ることにした。
ここ俺の家から遠いから通うのはちょっと厳しいや』
長井『そうなの?
うーん、わかった』
俺『ごめんね
せっかく紹介してくれたのに』
長井『いや、いいよ
しょうがない』
そこでメールのやりとりは終わった。
まあ俺が返信しなかったからなんだけど、なんて返せばいいかわからなかった。
この日は半年に一度あるかないかの体育。
うちの学校は運動場も体育館もなかったから体育をするときは近所の市民体育館を貸し切っていた。
その日体育で何をするかはランニングと体操をして初めて教えてもらえる。
俺、絶望。
ドッジボールなんて運動できないやつのただの恥さらしじゃないか!
もうわかると思うが俺は極度の運動音痴だ。
周りを見ると嬉しそうな顔をしているやつもいれば俺みたいに不満げな顔をしているやつもいる。
というより嬉しそうな顔をしているのは一部の男子だけだった。
ため息をつくとハマーが俺の肩にポンと手を置いた。
ハマー「大丈夫、俺が守ってやるから」
俺「だまれ」
担任「第一試合、Aチーム対Bチーム。CチームとDチームは邪魔にならないところで観戦するんだぞー」
試合開始後あっという間に決着がついた。
Aチームのボロ負け。
俺は早々にボールに当たって目立たなかったから精神的ダメージは軽量で済んだ。
自分のことに必死で誰がどんな活躍をしたかは分からない。
担任「Bチームの勝ち!次、Cチーム対Dチーム!」
やった、休める!
俺にとって体育の休憩は砂漠の中のオアシスだ。
この際に一言だけ言おうと思って長井を探した。
長井は一人で突っ立ってCチーム対Dチームの試合を見ていた。
俺「長井、この前はごめんね」
長井「何が?」
俺「バイトのこと。せっかく紹介してくれたのに」
メールでも同じことを言ったが、もう一度ちゃんと謝っておきたかった。
長井「大丈夫。時給が上がらなかったのは残念だけど」
俺「ん?えっと、どういうことですか?」
長井「店長がね、誰か紹介したら時給を10円上げるって言ってたの」
俺「それが狙いかww」
長井「うんww」
気付くと俺と長井は座っていて、いっしょにそれを見ていた。
長井「濱治君っていつも安藤君のそばにいるよね」
俺「あいつは女より男だから」
長井「やっぱりww」
俺「www・・・」
笑いの後に気まずい沈黙が生じた。
俺「そ、そういえばさ、長井は彼氏とかいるの?」
別に長井に彼氏がいようがいまいがどっちでもよかったが、沈黙を打破するために訊いた。
でもなんでこの質問にしたんだろ。
自分でも不思議だ。
長井「いないよそんなの」
俺「そんなのってww・・・」
長井「私誰かと付き合うとか絶対に嫌だ。束縛されるの大嫌い」
俺「お、おう」
長井の勢いにちょっと引いた。
あきらかに今長井は不機嫌だ。
俺は訊いてはいけないことを訊いたのかと焦った。
通信だからな
俺も聞いたとき耳を疑ったよww
へたくそながらに話を変えると長井の表情は穏やかになった。
それを見て俺も一安心。
長井「○○だよ」
俺「おお、観光名所じゃん」
長井「いいところだよ」
ピーーー
その時試合終了の笛が鳴った。
先生「Dチームの勝ち!次、Aチーム対Cチーム!」
俺「げっ、もう休憩終わりかよ」
長井「がんばろ」
俺「せやな」
俺たちが立ち上がるとハマーがこっちに向かって走ってきた。
ハマー「安藤、俺の活躍しっかり見てたか?」
俺「死ね」
となりで長井が笑ってた。
終業式
うちの学校は二学期制だったから夏休みが遅いんだ。
夏休みって言っても二週間くらいしかないけど。
この時にはたまに長井と話すようになっていて、
始業式が終わって「じゃあね」って声を掛け合った覚えがある。
でもそれだけ。
まだ俺にとって長井は学校でたまに話す人って認識だった。
俺は家で暇を持て余していた。
夏休みだっていうのにやることがない。
漫画も読んだしゲームもやった。あっ、勉強は元々しないです。
誰かと遊ぼうにも中学時代の友達はみんな学校。
高校の友達で唯一家が近いハマーはばあちゃんちに行っている。
短期バイトをやろうと思ったが時期的に高校生ができるのが一つもない。
まさに究極の暇だ。
このままずっと一人だとダメ人間になる!
誰かと関わらねば!
たった二週間の夏休みでこんなことを本気で思った俺はちょっとやばかったと思う。
しばらく悩んだあげく、ある結論にたどり着いた。
そうだ、誰かにメールしよう。
中学時代の友達は授業中だったら悪い。
ハマーは・・・いいや。
それ以外の学校の友達ともしょっちゅうメールしてるし・・・。
せっかくだからあんまりメールしたことない人にしよう。
なんてことを考えながら俺は携帯のアドレス帳を眺めてた。
しかし消去法でいくと一人しか残らなかった。
長井だ。
俺友達少なすぎ・・・。
次はその事で迷った。
そしてふとあることに気付いた。
俺、長井の電話番号を知らない。
ということでどうせ電話なんかしないと思いつつ
電話番号を教えてもらうために長井にメールをした。
長井『どうして急に?』
俺『携帯のアドレス帳見てたらさ、そこに登録されてる中で電話番号知らないの長井だけだったんだ。
それがなんか気持ち悪くて』
実際これは事実だった。
私は親しい人にしか電話番号教えないけど、いいよ
○○○-○○○○-○○○○(電話番号)
安藤君のも教えて』
俺『ありがと
俺の番号は○○○-○○○○-○○○○
登録よろしく』
長井『うん』
そこでメールのやりとりは終了。
結局俺はまた暇になっちゃって、何度もクリアしたマリオサンシャインをまた最初から始めた。
夜、マリオサンシャインをしていると長井から電話が掛かってきた。
まさか掛かってくるとは思わなかったから、出るとき緊張した。
俺「もしもし」
長井「男友達がしつこい。いや、もう友達じゃないか」
長井は早口でこう言った。
俺「え、ちょ、まず落ち着け。さっぱりわからん」
長井「ごめんちょっと聞いて。その人私にひどいこと言ったの、それなのに心が変わったのかしつこく謝ってくる」
なんでそんなことを俺に言うのか全く分からなかったが無視するわけにはいかない。
すまん、書き溜めたものを編集しながらだからちょいちょい遅くなる
長井「絶対に許さない」
一日たったら前日の怒りなんて忘れる俺にはこの絶対にというのが理解できなかった。
そんなにひどいことを言われたのだろうか。
俺「なんて言われたの?」
長井「それは言えない」
俺「そっか、じゃあこれからその人とはどうするの?」
長井「・・・関わらない」
これを聞いたとき俺は悲しくなった。
長井にひどいことを言った人に同情したのかは分からないが、
人と縁を切れるということがすごく悲しかった。
俺「縁を切るならちゃんと返してもらわなくちゃ」
長井「だよね・・・やっぱり返してもらう」
俺「それがいい」
長井「話聞いてくれてありがと。またね」
俺「はい、じゃあね」
結局なんだったんだ・・・。
その日少しだけ長井のことを考えて寝た。
始業式
長井とは一言あいさつを交わしただけで、男友達について触れることはなかった。
ココリコの遠藤と千秋の娘って言われてる写真が一枚だけすごい似てた。
ほかの写真はまったく似てなかったけど。
家でぼーっとテレビを見ていると、長井が住んでいるところが映った。
そこは観光地でよくテレビに映るが、長井と知り合って見るのは初めてだったからちょっと興味が湧いた。
俺はこのお菓子が大好きで子供のころから食べていたからテンションが上がった。
と同時にそれがすごく食べたくなってきた。
長井に買ってきてもらおうかな。
そう思った瞬間俺は長井に電話を掛けていた。
今日長井バイトかなーなんて考えていると、電話が繋がった。
長井「はい」
俺「もしもし安藤です。元気?」
長井「うんww」
俺「そりゃよかった。えーと、ゲーム返してもらった?」
いきなりお菓子を頼むのは気が引けた。
俺「あ、あーそうなんだ」
ダメだ、この話題は。また悲しくなる。
早く頼もう。
俺「今さ、テレビで長井が住んでる町が映ったんだよ。それ見てたら急に○○(お菓子)が食べたくなってきて・・・。
よかったら学校に買ってきてくれないかな。もちろんお金は払う」
長井「いいよ」
まさかの即答。
俺「マジっすか!?」
長井「うん、じゃあ明日買ってあさって渡すね」
俺「ありがと!」
・・・もしかして長井っていいやつじゃないか?
俺の長井に対する印象が変わった。
休み時間、ハマーはほっといて俺は長井の席へ行った。
俺「持ってきてくれた?」
長井「これだよね?はい」
俺「やった!ありがと」
その後お金を払って自分の席に戻った。
今すぐ食べたいがここは我慢。家でゆっくり食べるんだ。
今まで食べた中で一番おいしく感じた。
夜、ハンターハンターを読んでいると長井から電話が掛かってきた。
俺「もしもし」
やっぱり電話に出るときは緊張する。
でもこの時には
「長井とあんまり話したことないから緊張する」
から
「長井が異性として気になるから緊張する」に変わっていた。
気になるだけで惚れてはないからな!
俺「いいよ」
長井「まだ何も言ってないよww」
俺「お菓子買ってきてくれたから」
長井「そうだったね」
俺「で、お願いって何?」
長井「うん、今ね、私の好きなゲームがキャンペーンをやってて、パソコンから応募するとグッズが当たるかもしれないの」
俺「そのゲームって男友達に貸してたゲーム?」
長井「そうだよ、ドラゴンファンタジーっていうゲーム」
それはちょうど俺が買おうとしていたソフトだった。
ほんとは違う名前のゲーム
長井「知ってるの?」
俺「買おうか迷ってるところ。面白い?」
長井「面白い!買って!攻略本貸すよ!」
長井のこんなに明るい声を聞いたのは初めてだった。
俺「そんなに好きなのかよww」
長井「好き!」
俺は購入を決意した。
そのゲームやりたい気持ちももちろんあったけど、
それ以上に長井ともっと仲良くなりたかった。
それじゃないやつ!
長井「ほんと!?」
俺「うん、やりたくなってきた」
長井「買ったら知らせてね」
俺「もちろん。それでお願いっていうのは俺もそのキャンペーンに応募してってこと?」
長井「そうだよ」
俺「オッケー、今すぐ応募する」
長井「ありがと」
なんとグッズ当選者数はたったの3人!
長井がなんで俺に頼んだのか分かった。
一応、応募はしたが・・・当たるかこれ?
俺は奇跡が起こることを願った。
学校で長井にドラゴンファンタジーを買ったことを伝えた。
俺「ドラファン買ったよ」
長井「え!?どう?面白い?」
俺「めっちゃ面白い。雰囲気とか最高やな」
長井「でしょ!音楽もいいからよく聴いてね」
俺「分かったww」
長井「ドラファンは周回プレイも出来るから、初回クリア後かな」
俺「しゃーない、初回は自力で頑張るか」
長井「安藤君にクリア出来るかなー」
俺「俺のゲームテクニックなめんなww」
長井「詰まったらヒントあげる」
俺「おう、頼む」
帰り道ハマーがドラファン貸してと言ってきたが嫌だと断っておいた。
奇跡が起こった。
なんと、なんとドラファングッズに当選したのだ!
今手元にあるグッズが幻じゃないのを何度も確認した。
ってこれは言い過ぎかww
とにかくうれしかった。
なんか長井と運命めいたものまで感じた。
長井とはドラファンを買って以来、
ドラファンのことなどで毎日メールか電話をしてたんだけど、
このことは言わなかった。
明日学校で驚かせるために。
俺が当選グッズを見せると、長井は一瞬固まった。
長井「・・・すごい、当たったんだ」
俺「まあね。はい、あげる」
長井「いいの!?」
俺「いいよ」
長井「ほんとにいいの!?」
俺「いいに決まってんじゃん。そのために俺に頼んだんだろ?」
長井「見せてもらうだけでいいのに」
俺「とにかくあげる」
グッズを長井に手渡した。
長井「あ・・・ありがと!」
俺「どういたしまして」
俺は終始ドヤ顔ww
長井「安藤君大好き!」
はい、いただきました。
今長井に完全に惚れました。
俺「えっ、あっ、おっ、うん」
この時ばかりは動揺を隠せなかったww
授業中、長井からメールが来た。
長井『今度安藤君の家に行っていい?』
俺はドキッとしてななめ後ろの席にいる長井を見た。
すると長井もこっちを向いていた。
口パクで「マジ?」と言うと長井は頷いた。
ちょっと待ってて
書く
長井『5日
空いてる?』
俺『だいじょぶ』
長井『ドラファンがどれくらいうまいか見てみたい』
俺『うますぎて腰抜かすぜ』
長井『それはないww』
なんてやりとりをしてると担任に見つかって俺だけ携帯を取り上げられた。
放課後には返してもらったけど。
この日から授業中でも長井とメールするようになった。
俺 ちびandがり
長井 俺と同じくらいの身長 痩せ型
スペック何を書けばいいかわかんないよお
長井が来るということで部屋の掃除をした。
部屋がすっきりすると長井の前に誰かを家に呼びたくなった。
誰かって言ってもハマーしかいないんですけどね。
ハマーが家に来た。
ハマー「おお、片付いたなー」
俺「だろ?今度からはお前んちだけじゃなくて俺んちでも遊べるぜ」
俺の部屋が汚かったからハマーと遊ぶときは基本あいつの家だったんだ。
しばらく遊ぶとハマーが訊いてきた。
ハマー「おい安藤、お前長井とはどうなんだ?」
安藤「えっ!?」
どうって言われましても・・・。
ハマー「最近仲いいじゃねえか。どうなんだよ、どこまでいったんだよ」
俺「どこまでもいってねえよ」
ハマー「さすが童.貞.だな」
俺「お前もだろ」
ハマー「でも長井のこと好きなんだろ?」
俺「・・・」
ハマー「お前は分かりやすいからなー」
俺「いやあ、まあ、そうだけど・・・」
ハマー「じゃあいけよ!男ならいけよ!」
俺「そんなんじゃねーよ、ただの友達」
ハマー「けっ、ダメだなこりゃ」
ちなみにハマーは今現在も童.貞.だ。
このことはハマーに黙っているつもりだったけど
言われっぱなしでムカついたからつい言ってしまった。
ハマー「は!?おま、そういう大事なことは先に言えよ!」
俺「うるせー!これ言ったらお前もっとうるさくなるだろ!」
ハマー「ゆるせねえ・・・。おい安藤!スマブラやるぞ!ぼこぼこにしてやる!」
俺「望むところだ!返り討ちにしてやるよ!」
結果、俺はハマーに一勝もできなかった。
あいつのマルスはマジで強すぎる。
学校が終わり長井と一緒に俺の家に行った。
長井「おじゃまします」
俺「ここが俺の部屋」
長井「きれいだね」
俺「きれいにしたの」
長井「ちがうよwwここから見える海のこと」
俺の家の前には海があって、部屋から水平線まで一望できたんだ。
俺「もう見飽きたよ」
長井「もったいない」
俺「そういえば長井が住んでいるところは海がないもんな」
長井「そうだよ」
俺「まあそんなことより昼めし食おうぜ。なんか作るよ。嫌いな食べ物とかある?」
長井「作ってくれるの!?うーん、私はトマトが嫌い」
俺「じゃあケチャップ使えないな」
長井「ケチャップは好き」
俺「なんだそれwwまあいいや、適当に漫画でも読んでて待ってて」
長井「うん、ありがと」
俺はミートライスと野菜スープを作った。
長井はおいしいと言って残さず食べてくれた。
長井は「人がドラファンをやっているのを見るのが好き」と言ってずっと俺がプレイしているのを見ていた。
長井は椅子に座り、俺は長井の目の前で床に座っていた。
長井「結構うまいね」
俺「だろ?たぶん日本一うまいぜ」
長井「いや、私のほうがうまいww調子に乗るなww」
そう言って長井は俺の背中を足で押した。
俺「俺は昔、人間ストーブって言われてたから」
長井「なにそれおかしいwwwでもストーブなら活用しなくちゃね」
そう言って長井が俺の背中を両足で挟んできた。
長井「あったかい」
俺「あ、ああ、遠慮なく使いなさい」
もう俺心臓バクバクwwゲームに集中できないwww
だって好きな人が自分の背中を足で挟んでるんだぜ!
理性なんかたもてねえよ!
長井「そろそろ帰る」
俺「そうだね、家遠いし」
長井「何かゲーム貸してくれない?」
俺「いいよ、そこのケースに入ってるやつから好きに持っていって」
長井「うーん、じゃあこれ」
長井はゼルダのソフトを選んだ。
俺「バス停まで送るよ」
長井「ありがと」
外は昼間の何倍も寒かった。
俺は自販機であたたかいココアをふたつ買い、ひとつを長井に渡した。
そしてそれを飲みながら一緒にバス停まで歩いた。
俺「俺もびっくり。すげえおいしい」
長井「やっぱり寒いからかなー」
俺「かもね」
長井「ねえ、安藤君って一年生の最初から今の学校にいるの?」
俺「いや、一年の終わりのほう。長井が来る半年ほど前に転校してきた」
長井「そうなんだ・・・。なんで、転校したの?」
訊きづらそうに訊いてきた。
通信学校ではこの質問はタブーみたいなところがあったんだ。
みんな何かと暗い過去があるからな。
でも俺は違った。
誰もいなくても淡々とやっていくつもりだったんだけど
その言葉はやっぱりうれしい
長井「えっ、それだけ?」
俺「・・・はい」
こうなるからなるべく前の学校を辞めた理由を言いたくなかった。
俺「長井は?」
長井「私は、いじめられてたから」
俺は特に驚いたりしなかった。クラスにもそういう人がいっぱいいるだろうし。
ハマーも中学の時いじめられていたと言っていた。
長井「学校サボって死ぬところを探したりしてた」
しかしこの死ぬって言葉には驚いた。
俺「・・・なんかごめん」
長井「なんでよww」
俺「なんとなく」
今までのんきに生きてきた自分が馬鹿らしく感じた。
そしてもう少し早く長井と出会っていればという自分でもどうしようもない後悔が襲ってきた。
長井「・・・うん、そうする」
いつの間にか俺たちはバス停に着いていた。
そしてすぐに長井が乗るバスが到着した。
長井「来週暇だったら、今度はうちに来て」
俺「わかった。絶対行くよ」
バス停からの帰り道、明らかに来た時よりも長く感じた。
今日は長井の家に遊びに行く日。
にもかかわらず長井は学校に来ていなかった。
俺は心配になり長井に電話した。
しかしなかなか電話に出ない。
もう一度かけるがやはり出ない。
3度目の目の電話でやっと繋がった。
長井「もしもし」
俺「あっ、長井!お前今どこだよ!」
長井「家だよ。今起きた」
俺「家?・・・なんだ、よかった」
長井「なんで安心してるの?」
俺「いや、なんでもない」
俺はてっきり死ぬ場所を探しているのかと思っていた。
俺「そうだけど、俺長井んちの場所知らねえよ。たしか電車で通学してるんだったよね」
長井「そうだよ。じゃあ学校が終わったら電話して。どこでどの電車に乗ればいいか教えるから」
俺「あいよ」
長井「あっ、お昼ご飯は食べてこないでいいからね」
俺「ということは?」
長井「私が作るから」
俺「よっしゃ!オッケ!楽しみにしとく!」
長井「そこまで期待されても困るww」
俺「ならまったく期待しないでいるよ」
長井「それはそれで・・・ちょっとは期待してww」
俺「わかったww」
その後の授業中俺はずっとニヤニヤしてたwww
いやー周りは気持ち悪かっただろうな。
俺は方向音痴というわけではなかったから、特に迷うことはなかった。
教えてもらった駅で降りると長井が待ってくれていた。
俺「よっ、これお土産」
俺は来る途中のコンビニで買ったプリンを渡した。
長井「ありがと」
俺「やっぱここは山がいっぱいあってきれいだな」
長井「安藤君の家から見える海もきれいだよ」
俺「俺はここのほうがいいな」
駅から長井の家までさほど距離はなかった。
長井の家は普通の一軒家だった。
そこにはテーブルとテレビと大きな電子ピアノがあった。
長井が言うにはここは居間らしい。
俺「長井の部屋には行かんの?ww」
長井「顔がゲスいよww私の部屋は汚いからダメ」
俺「残念・・・」
長井「じゃあさっそくごはん作ってくるね。そこにあるゲーム好きなのしてていいから」
長井がテレビ台を指差してそう言った。
そこには大量のゲームがあった。
もちろんドラファンも。
俺「スマブラやってるよ。ごはん何作るの?」
長井「ひみつ」
俺はワクワクしながらスマブラを起動した。
長井「お待たせ」
テーブルの上にリゾットらしきものとインスタントのコーンスープが並んだ。
俺「いい匂いがする。これ、リゾット?」
長井「うん、しめじとベーコンのリゾット。料理がうまい人に料理を出すのはちょっと恥ずかしいけど」
俺「そんなことねえよ。じゃ、いただきます!」
俺はリゾットを口に運んだ。
俺「・・・おいしい」
長井「ほんと!?よかった」
長井が作ったリゾットはお世辞抜きでおいしかった。
明らかに俺より料理がうまい。
少し悔しかった。
何回か勝負をしたが長井はゼルダしか使わなかった。
実力は五分五分ってところ。
しばらくするとゲームにも飽きて、ふと部屋を見渡すと電子ピアノが目に入った。
俺「長井ピアノ弾けるの?」
長井「弾けないこともない」
俺「合唱コンクールで伴奏やった?」
長井「やった」
俺「じゃあ結構うまいな」
長井「何その基準ww」
俺「ちょっと何か弾いてみて」
長井「いいよ」
あとでわかったけどこのとき弾いていたのは久石譲の『あの夏』だった。
みんなが聴けば決してうまいと言えるような演奏ではなかったが、俺の心には十分届いた。
長井が弾いたからかな?
ピアノってこんなに素晴らしかったのかと少し泣きそうになった。
正直、涙目にはなっていたと思うww
長井の『あの夏』を聴きいたあと、俺はしばらく何も考えられなかった。
それほど俺の心に残った。
長井「なにそれ」
俺「マザーってゲームの曲」
長井「ネスの?」
俺「うん、ネスは2だけど。俺そのポリアンナって曲が好きだから、弾いてくれないかな」
長井「いいけど、楽譜がないと」
俺「パソコンで探したら見つかると思う」
長井「わかった。探して練習しておくね」
俺「頼む」
長井のピアノ演奏を聴いたら、無性にポリアンナの生演奏が聴きたくなった。
俺はその中からコナンを選び読み始めた。
長井は俺が貸したゼルダを始めた。
この間ずっと沈黙が続いたがまったく気まずくなかった。
むしろ心地よかった。
長井が急に声を上げた。
俺「何が?」
長井「本を90度以上開かないで」
俺「90度!?難しいぞ」
長井「ごめんね。私の家では本を大切にすることになってるの」
俺「そうなんだ。いいことだよ」
長井「安藤君、その巻まで読んだら一緒に行きたいところがあるの」
俺「どこ?」
長井「私のお気に入りの場所」
お賽銭箱がある建物がひとつ建っているだけ。
たくさんの高い木に囲まれていて、神秘的でなぜか落ち着いた。
長井「この神社は誰も来ないから一人になりたいときはよく来るんだ」
長井はお賽銭箱の前の三段くらいしかない階段に座った。
長井「ここにこうやって一日中ずっと座ってたこともある」
俺「確かに。ここなら永遠にいられそう」
俺も長井の隣に腰を下ろした。
俺「これ使えよ」
俺は首に巻いていたマフラーを長井に渡した。
長井「ありがと」
長井はマフラーを体全体に包むように巻いた。
長井「安藤君、お願いがある」
俺「言ってみなさい」
長井「学校がある日だけ、電話で私を起こしてくれない?」
俺「今日みたいに?」
長井「そう。私朝が苦手だから」
俺「いいよ」
好きな人にこれを頼まれて断る人がいるだろうか。
いや、いないだろう。
俺「そのかわり」
長井「ん?」
俺「ひざまくらして」
よく言った俺!
この時の俺を表彰してあげたい!
まあいつも通り心臓はバクバクでしたけどwww
俺「うん、ダメ?」
長井「安藤君ならいいよ」
安藤君なら!?
それってつまり・・・って訊きたかったけど今はひざまくらに集中することにした。
俺「では、失礼します」
長井「どうぞ」
俺はロボットのような動きで長井の膝に頭を倒した。
長井「大丈夫」
急に長井が俺の手を握った。
長井「安藤君の手、きれいだね」
俺「そ、そう?」
長井「それにあったかい。さすが人間ストーブ」
俺「・・・俺、今すごく幸せ」
長井「へんなのww」
このまま時が止まればいいと思った。
そして自分に「J-POPかよ」とツッコんだ。
時刻はとっくに8時を過ぎていていた。
長井「そろそろ帰らなきゃね」
俺「そうだなー」
俺はひざまくらされたまま答えた。
長井「また遊びに来てよ」
俺「うん」
当たり前だ。
俺と長井、予定が合えばどちらかの家に行くという日々が続いた。
この日も夜遅くまで長井と電話で話していた。
俺「明日は俺んちで遊ぶから、また何か作ってやるよ」
長井「うん・・・。ねえ安藤君」
俺「ん?」
長井「明日渡したいものがある」
俺「おっ、なになに?」
長井「教えない。ただ安藤君にしか渡さないもの」
俺「俺だけ!?」
長井「そう」
もうね、超嬉しかったね。
長井の中で俺が特別になったような気がして。
何を渡すのかは謎だけど。
長井「私の大切なもの」
俺「うーん・・・」
俺は長井の家に代々伝わる家宝的なものだと思った。
俺「売ったら高い?」
長井「ほしい人なんていないよww」
ほしい人がいないものをなぜ俺にあげのか。
俺「さっぱりわからん」
長井「明日のお楽しみ」
俺「くっそー気になるな」
いくら考えてもわかりそうになかったから
俺の中で長井が子供のころ大切にしていたおもちゃということにした。
長井「えーもう寝るの?」
俺は部屋の電気を消しベッドに横になった。
俺「おやすみ」
長井「ちょっと待って!私ポリアンナ弾けるようになったよ」
俺「マジで!?」
長井「今から弾くね」
俺「おう聴かせて」
ところどころ詰まってはいるが立派な演奏だ。
長井が弾くからか、心に響く。
俺はどんどん夢の中へと入っていった。
気付くと朝だった。
今日も長井の夢を見た。
初めて長井の家に行ったあたりから毎日長井が夢に出てくる。
やっぱり常に考えていたからだろうな。
いつも通り長井にモーニングコールをして学校に行った。
学校では昨夜俺が電話中に寝てしまったことを長井に笑われた。
約束通りこの日も長井に料理を作ってやったが何を作ったか覚えてない。
ただおいしいと言って食べてくれたことは覚えてる。
俺は長井からのプレゼントがいつもらえるのかワクワクしていた。
とてもじゃないが「プレゼントはまだ?」なんて図々しくて言えない。
それとも長井は何かタイミングを見計らっているのか?
長井「そうだ!安藤君に渡すものがあったんだ」
忘れてただけかーい!
でも待ってました!
長井はカバンから取り出したものを俺に見せた。
それは赤い液体が入った小さなビンだった。
俺「長井・・・これ、何?」
訊かなくても分かる。
これは血だ。
俺「・・・」
俺は頭の中がパニックになって何も言えなかった。
長井「今回は首を切ったの」
長井は髪をかきあげ、俺に首を見せた。
そこには何本もの傷跡が残っていた。
今回?首?切る?
俺はますますパニックに陥った。
長井「あとは左手首」
俺は長井の左手の袖をまくった。
やはりそこにも何本もの傷跡があった。
長井「だから私は夏でも長袖なの」
そういえばそうだ。
出会ってから一度も長井が半袖の服を着ているところを見たことがない。
俺「・・・いつから?」
長井「中学から」
俺「そんなに前から・・・」
俺「・・・うん」
長井「ありがと」
長井を安心させるために俺はビンを受け取った。
そしてそれを机の引き出しの中に入れた。
俺「なあ長井、自分を切るなんてやめろよ」
長井「無理だよ・・・切らないと落ち着かない」
俺「・・・そっか」
長井「私がリスカをしていることを知った人は、みんな私から離れていくの」
長井が悲しそうな声で言った。
俺「大丈夫、俺はずっとお前のそばにいるよ」
あきらめない。絶対にやめさせてやる。
俺にしかできないんだ。
本気でそう思った。
俺が血を受け取ってから、長井の行動は少しずつエスカレートしていった。
「吐いた」や「死にたい」と毎晩言ってきたり、
経血の画像をメールで送ってきたりした。
もちろんリスカも続けていて、
そのたびに俺はやめるよう説得した。
ただ俺と遊ぶ時は切らなかった。
長井なりに遠慮したんだろうな。
こういう日々が続いて、俺はますます長井を助けたくなった。
朝はやいからもう寝るよ
昼間とか時間があるときにまた淡々と張っていきまっす。
明日から冬休み。
長井とあさっての23日に長井の家で遊ぶ約束をして
学校から家に帰った。
長井「今日も手首切った」
この日も電話でそう言われた。
俺「・・・長井、自分を大切に思ってくれている人に申し訳ないと思わないのか?家族とか」
家族だけじゃなく俺も入っているけどな。
いつもの長井なら俺の説得に対してはぐらかすような答えをしていたけど今回は違った。
俺「えっ、違う、俺はただ・・・」
長井「そういうのもういいから」
ほんとこの時は悲しかったね。
長井のためと思ってやってきたことが全部無駄だったんだから。
いや、むしろ長井はそれをうっとおしく感じてたんだから。
やっと理解したよ。
長井は自傷行為を悪いことと思っていなかったことが。
そして相手の気持ちを考えずに都合がいいことばっかり言ってきた自分のあほらしさに。
長井「そうして」
俺は自分の心に何か違和感を覚えたが、気にしないことにした。
長井と遊ぶのは二人のスケジュール上年内最後だった。
いつものようにゲームなどをして遊んで神社に行こうとしたとき長井が言った。
長井「昨日、安藤君私のリスカをとめないって言ったよね」
俺「・・・うん」
なるべく昨夜のことは話題に出してほしくなかった。
長井「じゃあ私今からリスカするけど、とめないでね」
長井はテーブルの上にあったペン立ての中からカッターを取り出し、左手首を切り始めた。
俺「・・・」
目の前で一番大切な人が自分自身を傷つけているというのに
何もできない自分が歯がゆくて、悔しかった。
そして俺は涙を流していた。
自分でもびっくりするくらいに自然に。
長井よりもいち早くそれに気付き、後ろを向いて涙をふいた。
泣いているところなんて恥ずかしくて絶対見られたくない。
長井「私首絞められるのが好きなの。殺さないように絞めて」
俺「・・・ああ、いいよ」
昨夜俺は眠れずにずっと考えていた。
長井のために何ができるか。
しかし一つしか思いつかなかった。
それは長井を喜ばせること。
そのためならなんだってしよう。
俺は少しでも楽しそうに長井の首を絞めた。
心の中にあった違和感は確実に大きなっていたがやはり無視した。
この違和感は今の長井との関係を壊すかもしれないってわかっていたから。
街に集まり、
クラスの男連中だけでボーリングやゲーセンに行った。
ハマー主催の彼女がいないやつだらけの慰め会みたいなやつだ。
朝から夜まで最高に盛り上がった。
解散前に打ち合わせをして、次遊ぶ時はカラオケに行くことになった。
みんなと別れたあと、俺は長井のクリスマスプレゼントを買うため本屋へ行った。
最初はアクセサリーか何かにしようと思ったけど、
長井が「本を大切にしている」って言っていたのを思い出してブックカバーとしおりにした。
長井は喜んでくれるだろうか。
次、長井と会うのは年が明けてからだ。
俺は待ち遠しくて仕方がなかった。
と、その時雪が降ってきた。
夜の都会で見る雪は初めてだったからあまりの美しさに感動した。
長井と仲良くなっていろいろなことに心が動くようになった。
そう考えると今までの俺の人生はしょうもないもののように感じる。
この時どっかの電光掲示板から
ブリトニー・スピアーズの『My Only Wish This Year』が流れていた。
今でもこの曲は大好きだ。
そう決めて長井が驚いた顔を思い浮かべた。
まあ、結局このプレゼントを渡す日は来ないんだけどね。
俺は短期のバイトで工場の中でおせちなどのお正月商品を箱に詰めていた。
短期だから30日までのたった4日間の仕事だ。
俺はこうやって長い連休は短期バイトをしてお金を稼いでいた。
長期のバイトは面倒くさくてなかなか踏み出せなかった。
でももし長井に紹介されたバイト先が家から近かったら絶対始めていたと思う。
このバイトで、俺はなおちゃんという一つ年下の女の子と仲良くなった。
周りがおじさんやおばさんしかいなかったから、若い者同士自然にくっついた。
俺たちは初めて会ったとは思えないくらいすぐに打ち解け、休憩中なんかもずっとしゃべっていた。
いろいろな短期バイトをしたが、こうして誰かと仲良くなるのは初めてだった。
これも長井のおかげだろう。
彼女がいる時の方がいない時よりもモテるみたいな感じ。
この時の俺は尋常じゃないほどのコミュ力だった。
長井は彼女じゃないけど。
仕事が終わり作業服を脱いでいる時だった。
俺「うん」
なおちゃん「じゃあこのあと一緒にご飯食べに行こ」
俺「えっと、ちょっと待って」
長井のことが頭に浮かんだ。
そういえば長井とどこかに遊びに行ったことがない。常にどちらかの家だ。
ここで行くと長井に対する裏切りのような感じがする。
しかしすぐに冷静になった。
馬が合う友達とご飯を食べに行く。その友達がたまたま女の子ってだけじゃないか?
実際俺はなおちゃんに対して恋愛感情を持っていないし、今日会ったばかりだから向こうもそうだろうと。
俺「よし、行くか」
俺たちは近所のファミレスに行った。
この日もなおちゃんとバイト終わりにご飯を食べに行った。
たしかどっかのハンバーガー店。
モスだったかな。
俺たちはさらに仲良くなった。
なおちゃんとカラオケに行った。
みんなが言うには俺は音痴らしいんだ。
自分の中ではプロみたいに歌えてるんだけど相当外してるらしい。
だからなおちゃんにも笑われた。
そういう千佳ちゃんもすっげえ音痴で、笑ってやったら叩かれた。
なおちゃんね
バイト最終日
「今日はどこに行く?」と千佳ちゃんに訊くと、「ラーメン食べに行きたい」と言われた。
そこで俺が一番好きなラーメン屋へ連れて行った。
長井にもこうして自分のおすすめの店に連れていきたいな
なんて考えながら。
店を出るとあたりは真っ暗。
なおちゃんとご飯を食べた後はいつもこんな感じだ。
自転車に乗り発進しようとしたところでなおちゃんが言った。
なおちゃん「安藤さん、私と付き合って」
俺「・・・マジ?」
なおちゃん「うん」
不意打ちだった。
そこで話してみて気が合ったからそこで好きになったんだと。
誰からでも告白されるとやっぱり嬉しいものだ。
俺はテンションが上がった。
でも答えは決まっている。
俺「ごめん」
なおちゃん「・・・だよね・・・たった四日間遊んだだけだし・・・」
俺「また遊ぼうよ。俺なおちゃんと遊ぶの好きだから」
なおちゃん「・・・うん!」
その後なおちゃんとメアドを交換して別れた。
長井と付き合えば、もっと近くで支えてあげられるんじゃないかと。
そして家に着くなりさっそく長井に電話した。
なおちゃんの告白に感化されちゃったんだよな。
昔の俺はアホみたいに単純で恥ずかしくなる。
だよね。
告白した直後に思い出した。
長井は誰とも付き合いたくはなかったんだ。
だから全然悲しくなかった。
長井「安藤君のことは嫌いじゃないよ」
俺「いやいいって、俺の方こそ急にごめん。なんか焦ってたww」
すっげえ勇気出したからむしろスッキリした。
午後8時ごろ、一緒に近所の神社に初詣へ行くためにハマーがうちに来た。
俺「お前、早すぎるだろ。約束の時間は11時だぞ」
ハマー「家にいても暇なんだよ」
俺「まあいいや。ゲームでもして時間つぶそうぜ」
ハマー「スマブラスマブラ」
俺「よし」
今思えばこのころの俺たちはスマブラにハマりすぎてた。
俺「マルスばっか使うな」
ハマー「それはそうと、長井とは進んだか?」
俺「えっ!?・・・いや特には・・・」
長井に告白をしたことも、なおちゃんの存在も黙っておいた。
ハマー「リアルラブも雑魚だな」
俺「意味わかんねえよww」
たぶんハマーは現実の恋愛って言いたかったのだと思う。
俺「ああ、そうだった」
クラトゥというのは俺が長井と出会ったころくらいから聴きはじめて大好きになったカナダのバンドだ。もう解散してるけど。
俺はずっとハマーにクラトゥを薦めてて、この日CDをとりあえず一枚貸すことになっていた。
俺「俺たちは音楽の趣味が合うからな。聴いたら絶対好きになるぜ」
俺は机の上のCD置き場でクラトゥのCDを探した。
俺「あれっ、ない」
ハマー「机の中だろ。お前何でもこの中に入れる癖あるし」
そう言ってハマーは立ち上がり、机の引き出しを開けた。
俺「そこはダメ!」
ハマー「ほらあった。ん?なんだこれ・・・」
ハマーは血が入ったビンを取り出した。
俺「・・・」
俺はハマーと目が合わせられなかった。
ハマー「説明してくれ」
俺「・・・ああ」
ハマー「それはだいたい分かる。分かんないのはなんでそんなものがここにあるのかってこと」
俺「・・・あいつ本人から貰った」
ハマー「じゃあ、長井はリスカしてんのか?」
頭がキレるやつだ。
俺「手首だけじゃなく首もね。これはその首の血」
ハマー「・・・」
あきらかにハマーの顔は引きつっていた。
ハマーが唐突に言った。
俺「おっ?僕にやきもちを焼いているのかな?お前やっぱ男が好きだったのかww」
ハマー「おい安藤、今はおふざけなしだ」
俺「・・・わかってるよ」
ハマー「もう一度言うぞ。もう長井と関わらない方がいい」
俺「・・・できるわけねえだろそんなこと」
ハマー「お前が長井のことを好きなことはわかる。でもな、これから受験などがある大事な時期なんだぞ。
長井のせいで精神がぶっ壊されたらどうすんだよ!」
俺「それでも、俺は長井と約束したんだよ。あいつのそばにずっといるって」
ハマー「あーあ、約束しちゃったか・・・」
俺「ああ」
その瞬間ハマーが顔をぐいっと近づけてきた。
ハマー「お前も本当は思ってるんじゃないのか?これは普通じゃないって」
俺「・・・」
ハマー「やっぱりな」
俺「なんで確信するんだよ!」
ハマー「お前は嘘つけないからな。本当のこと言われると黙るんだ」
俺「・・・」
ハマー「ほらそれだ」
俺「あっ」
ハマー「ちょっとトイレ」
ハマーは部屋から出て行った。
ハマー「このままいけばお前はどんどん泥沼にはまっていく。だけど関わらないなんてことできないだろ?」
俺「うん」
ハマー「じゃあ少し距離を置いてみたらどうだ?」
俺「・・・考えとく」
そんなことしたくなかったけどな。
ハマーが言っていることも一理ある。
ハマー「11時になったぞ。そろそろ行くか」
俺「・・・うん」
長井のことでさらに頭がいっぱいになって
もう初詣なんてどうでもよかった。
年が明ける瞬間はお参りの列に並んでいる時だった。
電波の頃合いを見計らって、俺は0時15分くらいに長井に電話を掛けた。
俺「明けましておめでとう」
長井「おめでとう」
俺「えっと、長井・・・」
長井「何?」
俺「俺、もう長井にモーニングコールするのやめるよ」
長井「・・・そう」
俺「・・・じゃあ、電話切る」
長井「・・・うん」
距離を置かなきゃ俺はダメになる。
そう自分に言い聞かせた。
長井からメールが来た。
長井『ゼルダいつ返せばいい?』
俺『いつでもいい』
そっけなく返事をした。
長井『わかった』
俺はそれ以上メールを続けなかった。
ここ2ヵ月、毎日長井からメールなり電話なり来ていたが、この日は何もなかった。
だから俺も何もしなかった。
ただ、これが辛かった。
たとえ死にたいなんて言われようと、俺は長井と話すのが好きだったし、
それが毎日の楽しみになっていたから。
この日も長井とは何もなかった。
電話をして話したかったが我慢した。
変に距離を置くほど、俺の長井に対する気持ちはどんどん大きくなっていった。
悩んで悩んで悩みつくして、俺は決めた。
長井とは今後一切関わらないことを。
そして夕方ごろ、長井に最後の電話を掛けた。
俺が今20代前半だから7,8年前かな
ありがとう教えてくれて
ちょうど7 8年前の年頃なので…つい聞いてしまいました
きみもいろいろあったんだな
今も起きてますけどねwww
でもあまり人に言いたくないことなので
すいません
長井「うん」
俺「あのさ、俺・・・もう、長井とは関わらない」
長井「あっそ、じゃあね」
一瞬だった。
電話が切れたあと、俺は風呂に入った。
これでいいんだ。
これで俺は、長井のことなんて考えないで楽に暮らせる。
なんて風呂につかりながら考えたんですけどね。体は正直なんですよ。
また自然に涙が出てきたの。長井との楽しい思い出とともに。
そういう当たり前のことさえも楽しい思い出として頭の中に湧き上がってくる。
なんでこんな時に限って・・・。
そして涙を流しながら俺の考えは変わった。
「たとえ将来どうなろうと、長井のそばにいたい!それが俺の望むことだ!」と。
出ないかと思ったが長井は出てくれた。
長井「何?」
俺「長井、ごめん。俺やっぱり無理だ。お前と関わらないなんて」
長井ならきっと許してくれるだろうと信じていた。
俺「えっ?」
予想外の答えだった。
長井「安藤君私と約束したよね?ずっとそばにいるって」
今まで聞いたことのない冷たくて早い口調だった。
俺「だから、こうやって戻ってきたんだよ。長井のことが好きだから」
長井「好きならなんであんなこと言ったの?」
俺「・・・」
言えるわけがない。
「これから先もずっと大切な人が自分自身を傷つけるところを見るのに耐えられそうになかったから」
なんて長ったらしい自分勝手な理由が。
俺「なんだよそれ・・・」
長井「いやなの?私はこういうのに慣れてるから何とも思わないよ。
それに今回は付き合うことを提案された時点で少々気持ちが沈んでいたから過去のような気持ちにならないで済んだんだけどね。ありがとう」
長井が俺のことをどう見てたか少しわかった気がした。
俺「・・・じゃあ俺は今まで通り長井に都合よく使われればよかったのか?」
長井「ねえ、その都合よくって何?」
俺「長井が言ってほしいことを言って、してほしいことをするってこと」
長井「それに応えるのは私が決めることじゃないよね。
だいたい都合よく相手するのが嫌で後からこんな風に言うなら最初から相手しなければよかったのでは?」
確かにそうだ。
ただ断ればいいのに、俺は長井を喜ばせたり安心させたりしたくて、自分を殺していた。
いや知らないからこんなこと言えたんだろうね…
長井…か
リスカにしてもその通りだ。
長井が自傷行為をやめるという見返りがほしいだけで、俺は散々説得してきた。
まあ長井はリスカをやめたいとは思ってなかったから、これは俺の勘違いだけど。
俺「そうだよ。俺は・・・」
と言ったところで思いとどまった。「長井のため」なんて言っても信じないだろう。
俺が黙っていると長井が言った。
長井「結局あなたも今までの中の一人になるだけ」
俺「・・・!!」
ショックだった。
この言葉が一番傷ついた。
俺は長井にとってなんでもなかったんだ。
すると目に涙がにじんだ。
やはり俺の涙腺はゆるい。
このままじゃ涙声になって泣いているのがばれてしまう。
焦りや悲しみやらで頭がごちゃごちゃになり、つい言ってしまった。
俺「自分を客観的に見ろよ!!!」
長井にこんなに大きな声を出したのは初めて会ったとき以来だった。
長井「・・・お前にそんなこと言われたくない!!!」
長井が言い終わると同時に電話が切れた。
俺は机の中にしまっていたクリスマスプレゼントをゴミ箱の中へ思い切り投げ込んだ。
そういう風になるのが怖い
思い出してちょっと辛くなってきたwww
1日中ベッドから出られなかった。
夜、長井に電話を掛けたが着信拒否にされていた。
メールも同じだった。
今日から学校が始まる。
休もうとベッドにこもったのに母に叩き起こされた。
学校に行くと、長井がすでに来ていた。
朝のホームルームが始まる前、長井が俺の机の上に小さな袋を置いた。
中を見るとゼルダのソフトが入っていた。
俺が確認すると長井は何も言わず自分の机に戻っていった。
俺は謝ろうと立ち上がり、長井の背に向けて声を出そうとした。
でも、出なかった。
まさにこの時の
俺の心の弱さを象徴する出来事だな。
こっちまで辛くなってきたwww
約束していた野郎共でまた街に集まってカラオケに行った。
楽しい雰囲気を壊さないために常に明るくふるまった。
今だけでも長井のことを忘れようと夢中になって歌った。
しかし無理だった。
辛くてまともに歌えない。
音痴の俺がさらに音痴になる。
唯一70点を超えるくるりの『ばらの花』でさえ60点そこらだった。
今日は本屋へ行く必要はない。
俺は真っ直ぐにバス停へ向かった。
途中雪が降ってきた。
まさにあの日みたいだったけど、あの時とは気持ちが真逆だ。
あんなにきれいに見えた雪が今はうっとおしく思える。
まわりではたくさんのカップルが空を見上げていた。
普通にカップル以外の人もいるはずなのに、
なぜか俺の目にはカップルしか入らなかった。
それらを見ないために下を向いてバス停まで急ぐ。
気持ちを切り替えようと耳にイヤホンを差し、適当にiPodで音楽を再生した。
しかしiPodまで俺を追い込みたいのか、
流れてきたのはクラトゥの『December Dream』という今の俺にピッタリの悲しい曲だった。
この胸の苦しさは一生続くのか?
それならいっそ死んだ方がましだ・・・。
生まれて初めて死にたいと思った。
学校でも極力明るくふるまった。
みんなに変な心配させたくなかったし、何より長井に俺の弱いところを見せたくなかった。
プライドってやつだと思う。
放課後、ハマーにラーメン屋へ行こうと誘われた。
あまりにもしつこく誘うのでしぶしぶついていった。
なおちゃんとも行ったラーメン屋。
俺たちの行きつけだ。
昼時だけどこの日は珍しく空いていた。
そこで俺たちはいつものカウンター席ではなくテーブル席に座った。
予想と違ってすまんww
でもこれが現実なんだ
それでも一杯目をなんとか食べきった。
ハマー「すいません、替え玉ふたつ」
店員「はい!」
俺「ちょっと待って!俺のはいいです。こいつのだけお願いします」
店員「はい!替え玉いっちょう!」
ハマー「いいのか?お前いつも替え玉してんじゃん」
俺「腹いっぱい」
長井とけんかしてからずっと食欲がない。
というよりすべての欲が失われた感じだった。
ハマー「ならいいや。で、お前長井とは距離を置けたのか?」
分かっていた。ハマーが俺をラーメン屋へ誘った理由。
これが訊きたかっただけだろう。
ハマー「マジか・・・。その、ごめん安藤」
俺「え?」
ハマー「俺が関わらない方がいいって言ったから・・・。まさかお前がここまで長井のことを思っているなんて・・・」
ハマーはすごく申し訳なさそうにしていた。
俺「何言ってんだよwwハマーはまったく悪くないよww全部俺がしたことなんだから・・・」
ハマー「そうは言ってもな・・・。とりあえず今日のラーメン代はおごる」
俺「さんきゅ」
私はいい仲間を持った
でもすごく今1と長井が結ばれればよかったのにとまじめに思ってるw
俺「いや、謝れなかった。最初チャンスがあったんだけどな、それを逃してからさらに声をかけづらくなって・・・もう無理だなww」
ハマー「無理じゃないぞ。一つだけ方法がある」
俺「なんだよ」
ハマー「手紙だ」
俺は長井から手紙をもらった時のことを思い出した。
すべてはそこから始まったんだ。
ハマー「それしかないんじゃないか?お前にできることは」
俺「・・・そうだな」
俺は手紙を書くことにした。
『俺に勇気がなかったから手紙にした。
文章がおかしいかもしれないけど読んでくれたらうれしい。
長井は自傷行為とかをすることを自分の欠点だと思ってなかったんだよね。
それなのに俺は自分の価値観を押し付けて、ましてやそれを悪いことって決めつけて止めようとしてた。
すごく迷惑だったと思う。ほんとうにごめんなさい。
もうその時の感情だけで何かをしようとしない。
だからもう一度俺と友達になってくれ。
電話待ってる。 安藤』
ほんとはもっと長いけど、だいたいこんな感じのことを書いた覚えがある。
聞いているぞ
学校の休み時間、俺は長井のもとへ手紙を渡しに行った。
読んでくれるだろうか。そもそも受け取ってくれるだろうか。
たぶんこの時が長井と出会って最も緊張した場面だと思う。
俺「長井、これ」
四つ折りにされた手紙を差し出すと、長井は無言で受け取った。
俺「・・・じゃ」
そのまま教室にいるのは嫌だったからトイレへ行った。
ハマー「よう、渡せたな」
ハマーは嬉しそうだった。
俺「見てたのかよ」
ハマー「もちろん。ってなんだよ安藤。もっと喜べよー。これで長井と仲直りできるかもしれないんだぜー」
無駄だ。
実はハマーから手紙を書くことを提案された時から思っていた。
いや、もっと前から。最後に長井に電話を切られた時から思っていた。
もう長井とは仲良くなれない。
長井が出会ったころ言っていた男友達がいい例だ。
俺「・・・かもね」
俺は教室へ戻った。
長井に手紙を渡してもうすぐ2週間がたつ。
予想通り、長井から電話はかかってこない。
俺は何を迷ったか、少しでも今の環境や自分から抜け出したくて、
17年間連れ添った黒髪を茶色に染めた。
結局、何も変わらなかった。
高2と言えば、そう、修学旅行だ。
お決まりのコースをクラスや男グループでまわった。
某テーマパークにも行き、友達もみんな楽しそうにしていた。
俺も「最高!」なんて言って無理やりにでも楽しもうとした。
しかし心の中ではそんなこと思ってないからちっとも楽しくなかった。
常に頭の中は長井のことでいっぱいで、無意識に長井を探してしまう。
ただただ疲れた3日間だった。
続きは今夜書くよ
ちょっとショックww
ちょっとおそくなっちった
気が付かなかった
続き気になる
風呂落ちw
たぶんみんなが思ってるような展開じゃないよ
なおちゃんとカラオケに行った。
なおちゃんと遊ぶ時は基本カラオケか千佳ちゃんの家だった。
もう俺の部屋は汚くなっていたからな。
何曲か歌った後なおちゃんに言われた。
なおちゃん「ねえ安藤さん、楽しくないの?」
俺「えっ!?いや、楽しいよ」
なおちゃん「安藤さんたまにすごく悲しい顔してるよ」
俺「マジで?・・・ごめん」
長井のことを考えている時だろう。
俺「はあ?なんでそうなるんだよ」
なおちゃん「私ずっと思ってたんだよ!私がいくら楽しそうに話していても安藤さんまったく楽しそうじゃないもん!」
俺「そんなことないって」
なおちゃん「私のこと好きじゃないの!?」
その言葉に俺は異常に反応してしまった。
俺「好き?俺が一度でもなおちゃんに好きって言ったことあるか?」
なおちゃん「ないよ!でもわかるの!」
俺「意味わかんねえ、さっきと言ってることが逆じゃねえか!だいたい俺はなおちゃんのこと好きじゃねえよ!」
なおちゃん「・・・ひどい!なに!?私今まで安藤さんにいろいろやってあげたじゃん!」
俺「やってあげたってなんだよ!誘ってきたのは全部なおちゃんの方からだろ!!
だいたい俺は一回もなおちゃんを恋人だなんて思ったことねえよ!!」
なおちゃん「・・・最低。帰る」
そう言うとなおちゃんは荷物を持って部屋を出て行った。
思ってもないことを言いすぎてしまった。
だけど俺にはもう反省する気力もなかった。
終業式
高2最後の日。
終業式が終わった後、教室でクラス最後のホームルームがあった。
担任「今日は最後だからな、一人ずつみんなに一言だけ言っていこうか」
来ると思った。
みんなは慌てて何を言うか考えていた。
担任「じゃあ、まず安藤から」
一番前の端っこの席だから俺からなのは当然だろう。
俺「えーと・・・」
担任「立って言おうか」
俺「はい」
俺はだるそうに立ち上がった。
俺「えーと、この一年間、楽しかったこともあれば楽しくなかったこともありました。結果的に見れば楽しかったです。ありがとうございました」
適当に流した。
俺は長井の方を一切見ずに、聞き耳を立てた。
長井「私は3年生になったら週1のクラスに変わるので、バイトを頑張りたいと思います。今までありがとうございました」
え!?
今なんて言った?クラスが変わる!?
じゃあ俺が長井に会うのは今日が最後かもしれないのか!?
俺が長井を見ると、一瞬だけ目が合った。
だけどすぐに長井は視線を外した。
まあ、いても俺は声をかけられなかっただろうけど。
春休みの間、俺はバイトもせずにほとんど家の中(ベッドの中)にいた。
何もしたくない。
でも何かしていないと長井のことを考えてしまう。
だけどやっぱり何もしたくない。
という悪循環に陥っていた。
始業式
学校へ行くと、長井はいなかった。
唯一長井と会えたこの場所でももう会えない。
分かっていたのに辛かった。
担任に休み時間のとき生徒指導室に来るように言われていた。
ちなみに担任は高1からずっと同じマッチョの人だ。
部屋へ入ると、すでに担任は座って待っていた。
俺「僕、何か悪いことしましたかね」
担任「まあ座れ」
ひとまず担任の向かいの席に座った。
担任「なあ、お前どうしたんだ?」
俺「何がですか?」
担任「授業中、いや、学校で見かけるお前は最近いつもおかしい。明るさを失ったというか・・・生気を感じない」
そりゃそうだ。
もう長井と会うことはないから、明るくふるまう必要もない。
後でハマーから聞いたんだけど、
この時の俺は誰が見ても分かるほどにやさぐれてやつれていたらしい。
俺「・・・なんもないっすよ」
何かあったのは冬休みだ。
そもそもこの人に話すつもりはない。
担任「でも何かで悩んでいるだろ?学力のことか?」
俺「違います」
担任「家族のことか?」
俺「違います」
担任「友人関係か?」
俺「・・・違います」
担任「失恋か?」
俺「・・・」
「違います」の一言が言えなかった。
嘘をつけない自分の性格を恨んだ。
なぜか知らないけど続きが気になるぜ
担任も俺が長井と仲良くしていたのは知っていたから
すぐに長井のことって理解しただろうな。
担任「この失恋が初めてじゃないだろ?今まで何度も乗り越えてきたはずだ。今回もきっと大丈夫さ」
俺「・・・だといいですね」
この担任は何もわかっていない。
確かに今まで何度も人に恋をしてそのたびに失恋をしてきた。
しかし今回は違う。なぜなら相手は長井だ。
長井ほど好きになった人はこれまでにいないし、胸が痛くなったのも初めてだ。
この失恋に比べれば今までのなんて屁ほどに感じる。
何でそこまで長井のことを好きなったのかは正直わからない。
でもそんなもんなんじゃないかな。人を好きになるって。
安藤乙
サンクス
俺「ないです」
担任「好きなことは?」
俺「ないです」
長井とケンカしてからゲームも漫画も興味がなくなった。
クラトゥも長井を思い出すからまったく聴かなくなっていた。
その間にお前は好きなこと、やりたいことを見つけてこい。俺からの宿題だ」
俺「・・・気が向いたら」
担任「ああ、そんくらいの心構えで十分だ。もう教室に戻っていいぞ」
俺「はい」
俺は席を立った。
ハマー「なんて言われた?」
俺「まあいろいろ」
ハマー「明日お前んち行くから何を言われたか教えてくれよ。久しぶりにスマブラしたいしな」
俺「俺んちはダメだ。部屋が散らかりすぎてる」
ハマー「ああそうだった。じゃあ俺んちに来い。スマブラ持って」
俺「あいよ」
朝からハマーの家に行った。
ハマーの部屋は俺の部屋より狭いが、きれいにまとめられている。
俺「久しぶりだな、ハマーの家」
ハマー「そもそも遊ぶのが久しぶりだよ。最後に遊んだの大晦日じゃねえか?」
俺「そんな気がする」
一緒にラーメンに行ってからハマーは今までより遊びに誘っていてくれた。
だけど俺は毎回断っていた。
なおちゃんとは遊んでたのにな。
ごめんよハマー。
ハマー「変な宿題もらっちゃったな」
俺「ほんとだよ。元々将来のことなんかまったく考えてないっていうのに・・・」
ハマー「話戻るけど、なんで今回は俺の誘いに乗ってくれたんだ?」
俺「さあ、愚痴を言いたかっただけかも」
ハマー「まあ、それでいいか。安藤そろそろ腹減っただろ?俺が昼飯作るよ。今日は誰も家にいないから」
俺「お前料理できんの?」
ハマー「ん?カップラーメンに決まってるじゃねえか」
俺「だと思った」
ハマー「リビングに行こうぜ」
俺「うん」
でなぜかツボったwww
俺「ピアノ?ハマー、ピアノ始めたの?」
ハマー「そうか、久しぶりにうちに来たから知らないのか。妹が始めたんだよ」
俺「そうなんだ・・・。ちょっと弾いていい?」
ハマー「弾けんの?」
俺「いや、弾けない。音を鳴らすだけ」
ハマー「おういいぞ」
俺はピアノの電源を入れ、適当に選んだ鍵盤を3回連続でたたいた。
その瞬間、頭の中で『あの夏へ』が流れた。
俺は体が止まってしまった。
『あの夏へ』をピアノで弾いたことある人なら分かると思うけど、この曲は冒頭部分にミの音を4回鳴らすところがあるんだ。
だからこの時俺はたまたまミの音を鳴らして、同じ音がある『あの夏へ』を連想したんだ。
そもそも『あの夏へ』は長井からしか聴いたことがない。
次第に音だけではなくピアノを弾く長井の姿までもが脳裏に映し出された。
そして、あの時感じた感情が蘇ってきた。
・・・これだ!!!
ハマー「どうした安藤?固まってるぞ」
俺「ごめん、ちょっと帰る!」
ハマー「は!?」
俺はハマーの家を飛び出した。
嬉しくて、興奮を抑えるために、とにかく走った。
絶望の中でやっと見つけた唯一の光、
そして俺が本当にやりたいこと。
それはピアノだ!
海岸沿いを颯爽と走り抜ける時の気持ちよさは半端じゃなかったな。
しかし部屋が散らかりすぎてピアノを置く場所がない。
俺は部屋の大掃除を始めた。
掃除中ハマーから電話が掛かってきた。
ハマー「なんで急に帰ったんだよ」
俺「悪い、訳は今度説明する!」
ハマー「絶対だぞ」
俺「おう!」
ハマー「やけに嬉しそうだなww」
俺「まあなww」
大掃除は夜までかかった。
休み時間、担任のところへ行った。
担任「好きなことは見つかったか?」
俺「はい。ピアノです」
担任「ピアノ?なんでピアノが好きなんだ?」
俺「長井が弾いたピアノを聴いて、それで好きになりました」
担任「・・・そうか。じゃあ将来はピアノに関する職業に就くのか?」
俺「そのつもりです。今はそのことについて調べています」
担任「おお、いいじゃないか。先生も調べておくよ」
俺「ありがとうございます」
どうやら宿題は合格したらしい。
こういう親友って呼べる人が欲しかった…
放課後、担任から呼ばれた。
担任「安藤、ピアノに関われる良い職業があるぞ」
俺「なんですか?」
担任「ピアノ調律師だ」
俺「先生も!?」
担任「え!?じゃあお前・・・」
俺「はい。俺、ピアノ調律師になろうと思います」
担任「なんだ。最初から俺が心配することはなかったんだなww」
俺「そんなことないっすよ。心配してくれて嬉しかったです」
担任「今度三者面談があるから、その時に詳しく話そう」
俺「そうですね」
担任「でも安藤、そんな簡単に決めていいのか?」
俺「はい」
担任「分かった」
簡単に決めたわけがない。
自分なりにちゃんと考えたんだ。
反対されると思ったけど案外すんなり受け入れてくれた。
まあ『子供には自由を』みたいな教育だったから別に不思議じゃなかった。
理由を訊かれて、
ピアノが好きになった
今からピアニストにはなれない。
でもピアノに関わりたい。
と言ったら納得してくれた。
深く訊いてこなくて助かった。
親には長井のことをあんまり言いたくなかったからな。
でも急に長井がうちに来なくなったことは疑問に思っただろう。
ピアノが届いた。
一緒に頼んでいたピアノ初心者用の本を見ながら弾いて楽しんだ。
たぶん一日中弾いていたと思う。
三者面談
担任はピアノ調律が学べる学校をたくさん調べてきていた。
俺も調べていたが、それ以上だった。
長く話し合った末、ようやく一つの学校に絞れた。
その学校の入試は早くからやっていて、なんと7月から試験が行われていた。
(この前聞いた話だともうこんなに早くやっていないらしい)
俺はこの7月の試験を受けることにした。
母親や担任からはもっと遅くてもいいんじゃないかと反対されたけど、とにかく早く合格したかった。
今の状態からの変化がほしかった。
そして音楽に関する知識、いわゆる楽典の筆記試験の三つだった。
国語、数学、理科、社会、英語の試験がないことは俺にとって嬉しかった。
しかし重要な問題が残っていた。
俺は楽譜が全く読めないのだ。
おまけにピアノ初心者ときたもんだ。
ということで楽典の猛勉強とピアノの猛特訓が始まった。
もうこれでもかってほどに楽典の勉強とピアノを練習した。
試験では好きな曲を一曲披露ということだったから、久石譲の『Birthday』にした。
最初は『あの夏へ』にしようと思ったけど、それはやめておいた。
言葉では言い表しにくいけど、長井が弾いた『あの夏へ』を忘れそうだったんだ。
俺が弾くことによって上書きされるような、そんな気がした。
ピアノを弾いている時だけは長井のことを忘れられた。
皮肉なもんだよな。
俺がピアノにのめり込めばのめり込むほど、
長井が夢に出てくることも少なくなっていった。
ハマーとラーメンを食った後、一緒に俺の家に行った。
そして俺の髪を黒く染めるのを手伝ってもらった。
俺「サンキュー、一人じゃやりにくいんだよ」
ハマー「親にやってもらえよ」
俺「めんどくさいんだって」
ハマー「ほんとお前の親はお前に無干渉だなww」
俺「俺はそっちのほうが楽でいい」
ハマー「ラーメンおごってもらわなかったら絶対こんなことしないぞ」
俺「試験明日なのに髪が茶色のままだったからな」
ハマー「もし合格したら、一人暮らしだな」
俺「ああ、何百キロもこの家から通えないよww」
ハマー「暇だったら遊びいってやる」
俺「しょうがないな」
髪を染め終わった後はいつも通りスマブラをした。
俺はカービィーで頑張ってたwww
俺はほとんどネスだったな
使いにくかったけどマザー2が好きだから意地でも使ってたwww
なぜカービィーを使ってたかというと
友人のメタナイトの生贄にいつもされてたのwww
飛行機やら電車やらを使って志望校へ行った。
不安だったけど妙にワクワクした。
知らない土地だったからかな。
いや違うな、猛勉強・猛特訓の成果が試されるからだ。
受験生は俺以外にも何人かいた。
筆記試験はその人たちと一緒に受け、適性審査とピアノ実技は一人ひとり呼び出されてやっていくというものだった。
筆記試験は可もなく不可もない出来だった。
適性審査も終わらせ、あとはピアノ実技のみとなった。
ピアノの前に座った時、俺の手は猛烈に震えていた。
俺「えっ、えーと、グランドピアノなんですね」
試験管「?もちろんそうですけど」
俺「ですよねー・・・ww」
やばい、グランドピアノなんて弾いたことないぞ。
試験管「では『Birthday』お願いします」
俺「は、はい」
いつも通り、家にいると思って弾いた。
音や鍵盤の重みの違いに初めはとまどったが、すぐに慣れてきた。
そして無事、詰まることなく弾き終わることができた。
試験の結果は約二週間後に郵送されるということだった。
学校を出て、宿泊先のビジネスホテルに着くと俺はすぐに寝てしまった。
心身ともに疲れたのは久しぶりだ。
次の日は観光して帰った。
もちろんハマーへのお土産は買った。
ハマーと街に遊びに行った。
二人で人ごみの中を歩いていると急にハマーが後ろを振り向いた。
俺「どうした?」
ハマー「おい、あれ」
俺「ん?」
ハマーの視線の先に目をやると、
そこには一人でこちらに背を向けて歩く長井がいた。
すれ違ったんだろう。
長井の歩くペースが変わらないことからたぶん俺たちに気付いていない。
髪は少し伸びていた。
俺「・・・行こうぜ」
ハマー「いいのか?」
俺「うん」
俺たちはまた歩きはじめた。
変な夢を見た。
俺はニット帽にマフラーをしていたから季節は冬だと思う。
場所は俺の家の前の海岸で、夜の暗いその海岸沿いをただ一人で歩いていた。
水平線上には長井の地元で見た山々が並んでいた。
普段そこには何もないんだけど夢の中の俺はそのことを不思議に思わなかった。
しばらくすると、爆音とともに水平線上に並んだ山々が一斉に噴火を始めた。
すぐに俺がいるところまで火山灰が降ってきた。
その火山灰はキラキラ光っていて、まるで星のようだった。
あまりの美しさに感動していると、火山灰はあられに変わった。
体にビシビシと打ち付けるあられに耐えられなくなって
俺は自分の家に転がり込んだ。
長井は俺の顔を見るなり、あられが降り続く外へ飛び出していった。
そこで目が覚めた。
目が覚めて気付いたが、玄関に立っていたのは間違いなく長井ではなかった。
顔が全く違っていたんだ。
それなのに夢の中の俺はその人を長井だと思っていた。
ほんと夢って不思議。
長井と出会って一年後、
俺はどうしてもやっておきたいことがあった。
今日がその一年後かを確認するため、日記を開いた。
それだけ確認して閉じるはずだったのに、ついつい読んでしまう。
するとこの一年間のことが鮮明に蘇ってきた。
長井と仲良くなり、別れて、立ち直るまでのすべてが。
俺は日記を閉じ、机の引き出しから赤い液が入った小さなビンを持って海岸へ向かった。
太陽の光を反射して海がキラキラ光っている。
見飽きていたはずの光景なのになんだかその時は感動した。
砂浜に座り込み、ポケットに入れていたiPodを取り出してクラトゥを聴いた。
クラトゥはやっぱり最高だ。
今まで聴けなかった分を取り戻すかのように、満足いくまで聴き続けた。
茶封筒には合格通知書と書かれている。
やっと届いたんだ。
俺は恐る恐る茶封筒を開いた。
俺は両手を高く上げ「やったーーー!!!」と叫んだ。
そしてピアノの電源を付け、『あの夏へ』を弾いた。
まだ長井のことは好きだったけど、自分の中でやっと区切りがつけられた。
この一週間後くらいに始めたバイト先でホ.モ.の先輩にケツを狙われそうになったのはまた別のお話。
今まで読んでくれてありがとう!
簡単にまとめるとただの片思いの話だったな
合格おめでとう
今長井さんが仮に現れたらどうする?
長井にはちゃんと面と向かって謝りたいしお礼も言いたい
でもそれを言われても長井はまったく嬉しくないよな
だからどこかで見かけても、俺は何もしないと思う
このモヤモヤは一生ついてくるものとして受けとめてる
1つ疑問
ビンにつめられた血って、固まらないの?
固形物と液体に分かれてたな
脳みそのホルマリン漬けみたいな感じww
すまんそん
なるほど。ありがとう
調律師はとてもいい選択だと思う
励んでくだされ
安月給だけどやりがいのある仕事だよ
じゃあそろそろ落ちます
最後に一言
長井、ありがとう!お前の幸せを心から願っているよ!
みんなもありがとう!
ばいばい